××××××××××××

 

 

 

黒い影が 俺に迫る。

 

 

 

×××××××××××××××

 

 

 

黒い影が 俺を責める。

 

 

 

××××××××××××××

 

 

 

黒い影が 俺に失望する。

 

 

 

×××××

 

 

 

怒り 疑問 嫌悪…そして、諦め。
黒い影達と一緒に 俺に向かってくる。 とっさに目を閉じて 耳を塞ぐ。 その術も 全く意味が無くて、全てが見えてしまう 聞こえてしまう。 それでも俺は 動かなかった…いや、動けなかった。 逃げる事もできず、ただ その場にうずくまって。 そもそも 俺には、それ等から逃げ出す権利は持っていなかった。
理由は 単純明確。 その原因が全て 俺にあるから。 招いたのは他でもない 俺自身だ。 諦めていたんだ、俺も みんなも 何もかも。

 

 

 

「―――……ごめんなさい。 こんな俺で…ごめんなさい」

 

 

 

口からこぼれた いつもの言葉言い訳。 言ったところで どうにもならない。 俺のした事は 決して許されるものじゃない。
忘れちゃいけないんだ。 そう 忘れちゃ―――――。

 

 

 

 

 

「―――っ!?」

 

突然襲った 冷たい感触。 投げつけられた痛み。 そして 舌先に落ちる甘い味。 一気に 現実に引き戻された。 耳に入ってくる 怒り声と嘲笑う声。 顔を上げれば 馬鹿にする笑みを浮かべているJOLと、そのJOLを踏みつけて胸ぐらを掴んでいる フォルテの姿。

 

「オーオー、こりゃぁまた ハデにブチかまされたもんだなぁ。 大丈夫か?」
「ちょっと! バーストに何て事してんのっ!?」
「はいはい、部外者は引っ込んでてよ」
「ちょっ!? 部外者って…ウワッ!? 服にジュースがこぼれた!」

 

「やめろフォルテッ! 落ち付けっ!」
「はいはい、ここで暴れるの 禁止禁止ー」
「離せっ! 離せやゴラァ! 1発 殴らせろっ!」

 

周りが一気に ざわめき出す。 俺を心配する奴 フォルテを止める奴 面白おかしく観戦する奴…。 今が月1の定例魔王会議の直後だと ようやく思い出した。
クックックからハンカチを受け取って 顔を拭いた。 そうしてようやく 視界が正常になる。 ミックの(拘束具からの)大きな手の中で、フォルテがギャイギャイ喚きながら もがいていてる。 その様を見ながら笑うJOLに レオンハルトが睨み付けた。 問いただすレオンハルトの眼は 少し怖い。
「「ナンデ?」ッテ ソリャァ―――」。 カボチャの口が 面白おかしく開く。

 

「ゴミミタイニシケタツラシテ ボケーッテシテタモンダカラサ、目ヲ覚マサセタダケダヨ」
「ア”ッ?」

 

JOLがフォルテを押しのけて 俺のとこにやって来る。 今にも そのカボチャ頭を叩き割ろうとするフォルテの喚き声を聞き流しつつ、俺を覗き込むように睨んできた。 やはり間近で見てみると、ただでさえ大きいJOLが 余計に大きく見える。 そう圧されていた矢先、突然 頭に痛みが走る。 JOLの大きな右手に 髪を掴み上げられていた。

 

「おいっ! 何すんだいきなり!? 離せっ! JOL!」
「ネェ バースト。 アンタ今 ナニ考エテタノ?」
「…はっ?」

 

グシャグシャと乱される黒色の向こう、オレンジ色の顔が見えた。 濁ったオレンジの瞳が映る。 それは意地悪く 俺を馬鹿にしていた。 いつの間にか近くにあったその瞳と目が合い、引き離そうとした両手が 一瞬だけ止めてしまった。

 

「仕事ノ事? フォルテノ事? ソレトモ―――“あの日”ノ事カイ?」
「―――っ!」
「JOL。 いい加減にしてください。 あなたという人は どうしていつもそうやって…」
「アノサァ スカイ。 アンタハソーヤッテ 事アルゴトニ口ヲ挟ンデルケドサ、「それがウザくて仕方ない」ッテ思ッテルヤツダッテイルンダヨ? モーチョット空気 呼ンデホシイネェ」
「―――JOL! 貴様…!」
「レオンハルト! …やめろ、俺は 大丈夫だ」

 

JOLに煽られ 今度はレオンハルトが暴走しそうになるのが見えて、慌てて止めた。 1人を除く みんなの敵意の視線を集めてもなお、JOLは態度を改めようとしない。 JOLは そういう奴だ。

 

「…JOL、言いたい事があるのなら はっきり言ってくれ」
「―――ハーァー…」

 

掴まれている部分に さらに強い痛みを感じる。 痛みで一瞬 顔が引きつった。
ため息を大きく吐き捨てながら、JOLが俺に向かって 言った。

 

「アンタサ マサカ今サラ、後悔シテルンジャナイヨネ?」
「……」
「周リノヤツ等ガデキル事ガ アンタニハデキナカッタ。 周リガ変ワッテイッテ、ソンナ中 アンタ1人ダケガ取リ残サレタ。 ドンドンソノ差ト溝ガ大キクナッテ、モウ 埋メキレナイモンダッテ痛感シテサ」
「……」
「分カッテイタハズダヨネ? アンタ自身、アノ時 ドウスルベキダッタノカ」

 

JOLの言葉1つ1つ 鋭い蔓の先端になって、俺の胸に突き刺さる。 それ等が 俺の記憶を刺し出してくる。
甘やかされて それに依存してしまったばっかりに、俺は駄目になってしまった。 周りが簡単にできていた事は 俺にとっては難しかった。 自分の道を歩いていく兄弟達との差は 広がっていくばかり。 それを見たくない為に 現実から目を背けた。 目を閉じて 耳を覆って 口を塞いで、歩くのをやめて 考える事もやめて…ついには 全てを諦めた。
そんな「自分」を 俺は嫌っていた。 変わらない…いや、変えようとしない自分に嫌悪して。 それがさらに「自分を好きになる」という事を助長させた。

 

「アンタハ ナニモシナカッタ。 スルベキ事カラ逃ゲテ 現実カラ逃ゲテ…」
「……」
「―――コノ際 ハッキリ言ッテヤルヨ。 アノ時ノアンタハ 自分ヲ嫌ッテタンジャナイ。 自分ガスキダッタンダヨ! 自分ガスキデ! カワイクテ! 愛オシクテ! スキデスキデスキデ 仕方ナカッタダケダ!」
「―――っ!」
「ダカラアンタハ ナニモシナカッタ! 自分ヲ変エヨウトシナカッタ! 自分ヲキラッテイタンジャナイ! 「自己嫌悪」ヲ言イ訳ニタダ 自分ヲ愛シテイタダケ! ソンナノ 自己嫌悪デモナンデモナイ! タダノ「自己愛」ダ!」

 

髪を思いっきり 引っ張り上げられる。 痛みが髪と頭を 引き離そうと走り回る。 両手でJOLの右手を掴んで なんとか浮かび上がろうとする。 それは気休めに 痛みを抑える効果しかなかった。
カボチャ頭の大きな目が 飛び込んでくる。 その下にある眼は 俺に対する怒りが籠っていた。

 

「…確かに…そうだった。 俺は 何もしなかった。 お父さん達に甘やかされて 自分を甘やかして 嫌って…でも―――」
「ナニ? マタ 言イ訳スル気?」
「ち 違う! 俺は―――」
「黙レヨ」

 

体が下に落ちる。 頭の痛みが減り、 今度はお尻に 痛みが走る。 JOLから解放された…いや、ごみの様に投げ捨てられたんだ。
見上げたJOLの姿が さっきよりも大きく見える。 …怖い。 ただ巨大な恐怖が 俺の目の前にそびえ立っていた。

 

「ソウヤッテマタ「自己嫌悪」ヲ盾ニ 自分ヲ愛シ続ケルンダロ? アンタハ イツダッテソウダ…ナニモ変ワッテイナイ! 変ワロウトシナイ!」
「ジョ JOL…」
「アンタノソーイウトコロガッ! オイラハ大ッキライナンダヨッ!」

 

俺に対する非難。 そして 轟音と怒号。 赤い爆音が 会議室に響いた。 俺を蔑んでいたJOLの巨体が、俺の後ろの壁に 簡単に吹き飛んでいった。 ミックの拘束から無理矢理抜け出したフォルテが、フォルティックタクト片手に JOLに向かって飛んでいく。 見えてしまった紅い眼は、本気でJOLを 殺そうとしていた。
止めないと! 本能的に理解して 立ち上がろうとして、そうする前に 周りが止めてくれた。 ミックが再び 巨大な手でフォルテを床に抑え込んだ。 振り上げていた右手に クラーケンが足を絡めて、フォルティックタクトを器用に抜き取る。 完全に抑え付けられ身動きが取れないフォルテのところに レオンハルトが近づいた。 カチンッと 何かがかけられる音。 よく見て それがミックが魔法で作った首輪だと気付く。

 

「オマエ等ァ! ジャマすんなぁ!」
「フォルテ! 一旦 頭を冷やせっ! これ以上暴れると 俺も周りも黙ってはいないぞ。 …それにJOL 貴様もだ」

 

大きく割れた場所から JOLがフラフラと立ち上がる。 レオンハルトの厳しい眼に対し JOLは臆することなく睨み返した。

 

「最近の貴様の行動は どうにも目に余る。 …何故だ? 何故 このような愚行を行う?」
「…アンタニハ 関係ナイデショ。 バーニーガサッキ 言ッテタヨネ? 「部外者は引っ込んでて」ヨ」
「……」

 

JOLがもう1度 俺を睨んだ。 怒りと軽蔑の眼差し。 …そして どこか泣いているようだった。

 

「バースト。 タトエ 周リノヤツ等ガアンタヲ認メテモ、オイラハ アンタヲ認メナイ。 アンタガホントニ自分ヲキラッテ 変ワロウトシナイ限リ、絶対ニ…絶ッッッ対ニネ!!

 

俺にそう言い捨てて JOLが会議室から出て行った。 その背中を追うようにして バーニーも出て行った。 その直前に JOLと同じように軽蔑の眼を向けて。
やっと事態は 収束した。 みんなが俺に寄って来て 心配してくれる。 …でも、俺の心の中は 治まらなかった。 JOLの最期の言葉と JOLに対する罪悪感だけが、いつまでもぐるぐると 心の中で渦巻いていた。

 

 

 

 

 

「あんのクソカボチャァ…次会ったら ブッ殺す!」
「分かったから もう落ち着けって…」

 

フォルテが 赤いテーブルに苛々をぶつける。 自分の私室に戻ってからも、ずっとJOLに対しての 怒りの言葉を呟いていた。 そんなフォルテを 俺はどうにかこうにかなだめている。 テーブルに怒りをぶつけたところで どうしようもない。

 

「バースト! もう2度と クソカボチャと顔合わせるな! イイな!?」
「定例会議で顔合わせるんだ。 無理言うな」
「じゃぁ それ以外では絶対に会うな!」
「どうしても 会う時は会うんだ。 それこそ 無茶言うなよ。 …それに……」

 

「JOLの言ってる事も分かる」。 その言葉を1度詰まらせて 呑み込む。 今 言えば、フォルテの神経を逆撫でしてしまう。 でもそれは 第2の理由。
JOLがあんな事をしたのも ああ言ったのも、全部…全部俺のせいだ。 他のみんなには 認めてもらえた。 俺がきちんと その意志を示したから。 …でも、JOLにだけは できなかった。 あの時 俺は……。
「「それに」…って何だよ?」と、フォルテがいつの間にか 俺の隣にまで椅子を動かしてきた。

 

「……」
「…なぁ そう気落ちすんなって。 別に オマエがワルイわけじゃねーんだからな。 ワルイのは あのクソカボチャの方だ。 なっ?」
「……」

 

いつものように フォルテが俺を慰めてくる。 いつものように 笑って見せる。
…でも、悪い フォルテ。 今回ばかりは そういうわけにはいかないんだ。

 

「―――…駄目 なんだ」
「アンッ? 何が?」
「このままじゃ 駄目なんだ。 俺はまだ JOLに認めてもらっていない。 その為には 俺が変わらないといけないんだ」
「バースト…」
「…それに 嫌な予感がするんだ」

 

レオンハルトの言葉を 唐突に思い浮かばせる。 あの時 JOLから嫌な「何か」を感じた。

 

「俺がこのまま変わらなければ 何か…とんでもない事が起きそうな気がするんだ」
「ハッ? どういう意味だ?」
「分からない…うん、上手く言い表せない…けど これだけは言えれる。 このままじゃ いけないんだ」

 

俺の中で渦巻く JOLに対しての負の感情。 そして 嫌な予感。 分かりきっているのは「本当に変わらないといけない」という事、ただ 1つだけだ。

 

 


inserted by FC2 system