〔あの魔王様達を かわいいヌイグルミにしました! 「モフモフ! 魔王様」シリーズ! 全国各地のおもちゃ屋にて 発売中! なお 新しいヌイグルミができ次第、随時 追加発売する予定です!〕

 

 

 

「何なんですか!? 一体どういう事なんですか! これはっ!?」

 

普段は絶対に出さない 荒げた声を上げながら部下に問いただすのは、スカイピアを治める魔王『スカイライン・バードニカ』。
先日 魔王ハウスでくつろいでいた所を、置かれていた共用テレビの画面にでかでかと 愛らしい姿をした自分のヌイグルミが映し出されていたのを目にしてしまったからだ。 そして そのヌイグルミを買ったと聞きだした、部下の1人を捕まえ こうやって問い詰めているのである。
荒れる魔王の様子に少し戸惑いながらも、部下である鳥人の女性は 素直に白状した。 部下曰く、ゴルドバニカにあるおもちゃ屋の店主が 愛娘の為にバーニーのヌイグルミを作ってプレゼントをしたところ、その出来の良さが知れ渡り「商品化」の声が殺到。 そこで店先に並べたところ あっと言う間に完売。 そこで店主は「他の魔王様もヌイグルミ化したら売れるのでは?」と考えたそうだ。

 

「今じゃ どこのおもちゃ屋でもほぼ完売状態。 予約の方も 3ヶ月待ちですからね。 私の場合は 店の開店前に並んで手に入れましたけど」
「最期のは聞いてません!」

 

嬉しそうに話す部下の言葉を聞いて、いてもたっても居られなくなり スカイは城から飛び出した。 向かった先は、当然 街のおもちゃ屋。
ただでさえ他の魔王達と比べて背が低い事を気にしている上に あんなかわいらしいヌイグルミまで出されたら、ますます 男装している自分個人の面目が立たない。

 

「アッ、スカイ」
「…クラーケン!」

 

急いでいたせいか、親しい彼女の存在を 声を掛けられるまで気づかなかった。 そして よく見ると、クラーケンの深い青色の足の中に かわいい自分の形をしたヌイグルミが2つ。

 

「もしかして、クラーケン。 あなたもヌイグルミを求めて…?」
「ウン。 キミのやつが欲しくて 探し回ってたんだ。 んで、ここでようやく手に入れたってわけ」
「そ、そうなんですか…」

 

わざわざ「キミのやつ」と指定され、嬉しいような 嬉しくないような、複雑な気持ちに襲われた。
…ふと、スカイはある事に気づいた。 もし 自分が欲しいのだったら、1つだけでいいはずだ。 なのに クラーケンが手に持つヌイグルミの数は2つ。

 

「…あの、クラーケン。 2つ持ってるって事は、誰かに頼まれたんですか?」
「よく分かったね。 今から その頼んだ人の所に届けに行くところだったんだ。 せっかくだから、キミも一緒に来ない?」
「ボクもですか?」
「ムリだったらいいよ。 強制はしないから」

 

ヌイグルミの為だけに魔王に頼むとは、自分達と同じ魔王なのか あるいは よっぽど立場をわきまえない者なのか…。 それに、このヌイグルミを欲しがっている者がどんな人なのか、少し気になったのもある。
スカイはちょっとだけ悩んで、了承の返事を告げた。 そして、クラーケンの後に付いていく。

 

「ところで、そのヌイグルミを頼んだ人は 一体誰なんです?」
「会ったらすぐに分かるよ。 …まぁ、キミもよく知ってる人だよ」

 

“自分もよく知っている人”。 右翼を顎に重ねて、1回だけ首を傾げる。 自分がよく知っていて、なおかつ 自分のヌイグルミが欲しいが為に、クラーケンに頼み事ができる人物…。 これ等のキーワードを混ぜ合わせ、スカイは ある人物の姿を思い出す。 「まさか」と、その行き着いた人物を疑った。

 

 

 

 

 

「ハイ、コレ。 頼んでたヌイグルミ」

 

太陽と炎を象ったマークが入った 大きなオブジェクトが掛けられている立派な私室。 その主である人物に、クラーケンは スカイラインのヌイグルミを手渡す。 そのヌイグルミのモデルの本人を目の前にしながら、その人物―――『レオンハルト・ブレイヴ』は 僅かながら戸惑いを表す

 

「まさか、本当にあなただったとは…ちょっと意外です」
「かっ 勘違いするな! 部下の1人が「恋人にあげたい」と言っていたから、クラーケンに頼んだだけだ」
「…そうなんですか?」
「あぁ そうだ。 俺も部下も忙しいからな。 クラーケンに この事を相談したんだ。 すまなかったな」
「イイよ。 ボクもちょうど、スカイのヌイグルミが欲しかったところだし」

 

「ついでにレオンハルトのやつも欲しかったんだけどなー」と、物欲しそうなクラーケンの呟く声が。

 

「すまないが 2人共、俺はこれから 仕事に取り掛からなければいけなくてな」
「そっか。 じゃぁ、ボク達はこの辺で」

 

書類を手に取るレオンハルトの姿を尻目に、2人は私室を後にした。 そして、炎を体現したような赤い城壁を背にしながら スカイから会話を吹っ掛ける。

 

「…クラーケン。 レオンハルトの あの様子―――」
「やっぱり キミも気づいてた?」
「えぇ、明らかに動揺していました。 いつもの彼女らしくないです。 あれは絶対 隠してますね」
「だろうねぇ……」

 

しばしの沈黙。 そして、周りの部下達に気づかれないように…。

 

「…見に行こうか?」
「えぇ、それは ぜひ」

 

赤い鎧を身に纏った 兵士の警備を掻い潜り、2人の魔王はレオンハルトの私室の真下の城壁までたどり着く。 そこから、クラーケンは魔法で水柱で スカイは飛行で、私室を覗き込める窓を目指して飛び上がった。 ガラス越しから見えるレオンハルトに気づかれないように、こっそりと 彼女の様子を確認する。
……そして 明らかにおかしいという事に気づいたのは、覗き込んでから5秒後の事。

 

「…レオンハルト、何してるんですかね?」

 

仕事するには机と向い合せにならなければいけないが、その机とは全く正反対のベットの上に レオンハルトはいる。 明らかに 仕事をする素振りではない。 そして、寝るにはあまりにも早すぎる時間帯。 一体何をしているのか? それを探るべく さらに注意深く彼女を見て、スカイは 驚いた。 正確には、レオンハルトがベットの下から取り出した「物」に対して。

 

「あれって、クラーケンのヌイグルミ…」
「ワーオッ

 

取り出したクラーケンのヌイグルミと 先ほど受け取ったスカイのヌイグルミを、まるで恋人のように抱き合う。 深く顔をうずめながら 彼女はベットに寝転んだ。 聞こえはしないものの、その口の動きから 明らかに「かわいい」という、普段の彼女から絶対に聞けないであろう言葉が飛び出している。
今 2人が見ているレオンハルトは、大陸と獣の魔王ではない。 もはやその姿は、“かわいいヌイグルミを手にして喜ぶ女の子”そのものだ。

 

「やっぱりね。 嘘を吐いてまでも 欲しかったんだろうね」
「と、とんでもないものを見てしまったような気がします…」
「きっと 知られたくなかったんだ。 威厳ある魔王が「クラーケンボクスカイキミのヌイグルミが好き」だなんて知られたら、笑い者にされるって思ってるんだろうね」
「こんなの、特に JOLさん辺りに知られれば、弄られる格好のネタにされますね」

 

幸せそうな顔をして、自分達のヌイグルミを抱き続けるレオンハルト。 そんな彼女のかわいらしい姿を見続けて、そして、彼女に気づかれないように…。

 

「…帰りますか」
「そうだね。 “ボク達は何も見なかった”。 そういう事にしとこう」

 

幸せ一色のレオンハルトの姿を見ながら、2人はゆっくりと 窓から離れていく。 一方、特に知られてはいけない2人に知られてしまったとは露知らず レオンハルトは、それからしばらくは そのヌイグルミ達と至福の一時を過ごしていたという。

 

 


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