確か、時刻がちょうど3時になった辺りだったか。

 

その日も 3日前から続いて、涼しい風が吹くいい天気で 万年雪景色のブレッサンスノウの天候も穏やかだった。
仕事に一段落ついた俺が 魔王ハウスに訪れると、フォルテが 一足先にくつろいでいて俺の事を待っていた。 そこから少しだけ他愛もない事を話しあった後、レストのところでおやつを食べようという流れになった。
「まさに 絶好のおやつ日和だな!」と 子供の様に話すフォルテと一緒にフレンド・プレッソに向かおうとした…まさに、その時。

 

 

 

「オルァ! フォルテェ! オイラト勝負シロォ!」

 

 

 

くそカボチャ…もとい、JOLの 突然の襲撃に出くわした。 …JOLが何故か、右手に派手な色の袋を握りしめながら。

 

「アッ? 何だよクソカボチャ? 今 オレは取り込み中なんだ。 どっか行けや」
「ドー見テモ、仕事シテイルヨウニハ見エナインダケドナァ?」
「いっつも アホでくっだらねぇ事しかやんねーオマエよりかは忙しいんだよ、オレは!」
「いやいや、お前もお前で 仕事さぼりまくりだからな。 …で、勝負って 一体何する気だ?」

 

悪態吐きながらも、俺はJOLに訊ねる。 相変わらず意地悪そうに笑うJOLは、握りしめている袋を俺達に突き出してきた。

 

「今ハ 午後3時! ツマリ「オヤツノ時間」!」

 

そう言いながら突然、その袋を開け 中身をテーブルの上にぶちまけやがった。 ガラガラッと音を立てて姿を現したのは、大量の カボチャ型のクッキーだった。

 

「コノ大量ノクッキーノ中ニ1ツダケ、毒入リノクッキーヲ混ゼテオイタヨ! ソレヲ アンタとオイラ、ソノ毒入リクッキーヲ当アテルマデ 交互ニ食ベルンダ!」
「なるほど。 要は「ロシアンルーレット」ってヤツね」
「ソウサ! サァ、オイラと勝負シロ―――」

 

やる気満々な様子で フォルテに挑もうとするJOL。 そんなJOLの申し出に返した、フォルテの返事が―――。

 

「やなこった!」

 

迫真の顔での、堂々の「NO」。
JOLが、軽くずっこけた。

 

「オイコラァ! ナンデダヨッ!?」
「オレは今から バーストと甘い甘い甘ーい時間を過ごすんだよ!」
「一応言っとくけど、レストの所でおやつ食べるだけだからな」
「ソレを、オマエに邪魔されてたまるかってんだ! オマエにはバーニーがいるだろ! アイツと一緒に食えよ!」
「アンタジャナキャ 意味ネーンダヨ!」
「と に か く だ! オレは食わないからな! 行くぞ バースト」

 

JOLを放っておいて、魔王ハウスの出入り口に向かおうとするフォルテ。 だが、何故かいつの間にか JOLがフォルテの先を回っていた。 フォルテの顔を覗き込み、ニヤニヤと馬鹿にするような笑みを浮かべる。

 

「ハッハァーン? モシカシテ、オイラト勝負スルノガコワインダァー?」
「……ア”ッ?」

 

フォルテの顔が 怒りの色に染まった。 そんなフォルテの顔を見てもなお、JOLは煽るのを止めない。

 

「ソリャァ ソーダヨネェー? アンタ、オイラトノ戦イニハイッツモ勝ッテルケド 勝負ゲームデハホットンド負ケテルンダヨネェー? 負ケルノガイヤダカラ 勝負シタクナインダヨネェ? 大切ナ人ノ前デ、無様ニ負ケル姿ヲ見セタクナインダヨネェ?」
「JOL、それ以上は止めろ」
「イーヨ? ソノママ レストノトコニ行ケバイイサ。 “逃げる”ノモ、選択ノ1ツダカラネ。 ダカラソノママ オイラカラ逃ゲ続ヅケレバイイサ。 ソウデショ?」
「おいっ! いい加減に―――」

 

 

 

「ゲ ー ム 最 弱 ノ 大 魔 王 様♪」

 

 

 

次の瞬間、フォルテの行動は早かった。 フォルテが JOLのカボチャ頭を鷲掴みにし、ソファの上に叩き伏せた。 そしてその隣に 勢いよく座り込む。
フォルテの顔は、完全にキレている。 完全にやる気だ。

 

「誰が“逃げる”だぁ? エッ? オレがクソカボチャオマエから逃げるわけねぇだろーが! クソがっ!」
「アァ…ククッ…」
「上等だ! この勝負、受けてやろうじゃねーか!」
「クッククッ…ソウ コナクッチャネェ!」

 

(あぁ、やっぱ結局 こうなるか…)

 

俺に向けられているならまだしも、相手はJOLだ。 こうなると、もう 止める事はできない。 2人と、この勝負の成り行きを 見守るしかない。

 

「先行ハ アンタカラデイイヨ♪」
「アァ、そうさせてもらうぜ」

 

フォルテが散ばるクッキーの中から1枚だけ摘み、口の中に入れる。 それから間もなく、噛む合間に 小さな舌打ちが聞こえた。

 

「何でオマエみたいなクソが、こんな普通に美味いお菓子が作れるんだよ…」
「ケッケケッ♪ オ褒メノオ言葉 ドーモ♪」
「褒めてねーよ!」

 

続いてJOLが、クッキーを自分の口の中に。 「ウンウン サスガオイラ。 クッキーノ味トイイ 焼キ加減トイイ、サイコーダネェ」と、自画自賛する声が出てきた。
…そういえば、JOLが言っていた「毒」って 一体何なんだ?

 

「なぁ JOL。 お前がさっき言ってた「毒」って、何なんだ?」
「…エッ? イヤダナァ。 ソレヲ今言ッチャッタラ ツマラナイデショ?」

 

ぁ、そうだった。 そういやこいつは そういう奴だった……。

 

 

 

 

 

(……)

 

「アーング…」

 

(……中々 終わんねーな…)

 

「…しまった! バーストが さっきから待ちぼうけだった!」
「いやっ いい。 棚の中にあったホワイトクーヘン 食べてるから」
「オッ? そうか?」

 

クッキーの数も大分減り、残すところ 10枚程度といったところか。 2人に異常は見られない。 という事は、毒入りクッキーはまだ、散ばっているクッキーの中だ。

 

「ソロソーロ、毒入リノヤツガ当タッテモ イイ頃ナンダケドネェ…?」
「クソカボチャ、オマエが食えよ」
「ヤナコッタ。 ナァーンデ オイラガ食ベナキャイケナインダヨ。 アーン…」

 

JOLが1枚食べ終え、残り9枚。

 

「…JOL、お前 えらく余裕だな?」

 

フォルテが食べて、残り8枚。
終始ニヤついているJOLが気になった。 まるで、「毒入りのクッキーが分かっている」様だ。

 

「エー? ベッツニィー? 気ノセイナンジャナイノー?」
「…ケッ!」

 

残り7枚。
JOLの事だ。 きっとまた 卑怯な手を使っているに違いない。

 

「オマエは そうしねーと勝てねーもんなぁー?」
「ソウデナクテモ、ゲームデオイラニボロ負ケシテイル アンタダケニハ言ワレタクナイナァー?」
「んだとゴラァ!?」

 

残り6枚。

 

「ソモソモ、オイラガ「ズルシテル」ッテ証拠ハ ドコニアルノサ?」
「俺と初めて闘った時」
「…アレハアレ! 今ハ違ウデショ?」
「…はぁー…」

 

残り5枚。
堂々と 白々しく言い逃れようとするJOLに これ以上問い詰めるのは無意味だと判断して、ソファに体を委ねる。

 

「…オイッ、コレ ホントに毒入ってんのかよ?」
「ソンナハズハナイヨ? 毒入リクッキー1枚 チャァーント入レテルヨ?」

 

残り4枚。

 

「おいっ、フォルテ。 やばいぞ。 このままいけば―――」
「分かってる。 ちょっと黙ってろ」

 

残り3枚。

 

「……」

 

パキリッと クッキーをかじり割る。 …異常は、ない。
残るは2枚。 もし、このJOLの番に 毒入りクッキーを食べ当ててくれなかったら、それを フォルテが食べないといけない事になる。 それは、つまり……。

 

「サァーッテ、ドッチニシヨウカナァー?」

 

テーブルにある 2枚のクッキーを見定める。まるで、「どっちが毒入りクッキーなのか分かって」いながら「分からない」フリをして。 傍から見たら 本当にわざとらしく、無駄に 焦らす 焦らす。 そして、その生意気そうな笑みが 一層フォルテを苛立たせる。

 

「さっさと選べよっ! クソカボチャ!」
「ンー…ジャァ、コッチニスルカナ」

 

右側のクッキーを、ポイッと口の中へ投げ込んだ。 そして、クッキーの潰れる音。 JOLの動きが 何故か止まった。

 

「……」
「…JOL?」
「…ッ!? グゥェッ!」

 

JOLが突然 口を抑えて、苦しみだした。 激しく咳き込むその姿を見て、フォルテが馬鹿にし 喜んだ。

 

「ゲヘッ! ゲェェッ!」
「ヨッシャァッ! ザマーミロ! このクソカボチャ!」
「ア”ッ…ウソ ダ…! ゲヘッ! オイラガ…オイラガ負ケルナンテ…!?」
「だーれが「ゲーム最弱の大魔王様」だってぇ!? このクソカボチャ! オレはなぁ、闘いもゲームも最強の 大魔王様なんだよ!」
「……」
「分かってんのか!? エッ!? コレに懲りたらもう二度と オレに挑もうなんて考えんなよ! カボチャはカボチャらしく、大人しくカボチャ畑でも―――」
「っ!? フォルテ! 後ろっ!」

 

フォルテの足下からツタが生えてきて、それに気づいて すぐ呼ぼうとしたが、すでに手遅れだった。 急激に伸びたツタはフォルテの両足と両腕に絡んで、ガッチリと固定した。 すぐさま助けようと飛び込もうとしたが、俺の足元からにもツタが飛出し 目の前を境に絡み合い巨大な壁となって立ち塞がった。
絡み合うツタの僅かの隙間から見えたのは、さっきまで苦しんでいたはずの 今は不気味な笑みを浮かべるJOLの顔。 フォルテを嘲笑う JOLの声が聞こえた。

 

「バァーーーカッ! フォルテノバァーカッ! ケケケッ!」
「…ンノヤロォ!」
「オイラガ仕掛ケタ勝負デ、オイラガ負ケルワケナイデショー? チョーット考エレバ スグニ分カルダロウニィ」
「チィッ!」
「コレダカラアンタハ、ゲーム最弱ノ大魔王様ナンダヨ。 ケッケケケケッ!」

 

JOLが 最後の1枚を手に取った。 最後の最後まで残った、毒入りクッキー。

 

「…ソーダッ! コノ際 教エテアゲルヨ! 毒入リクッキーノ「毒」ノ事! 食ベタラ最後、3日3晩 心ガ完全ニ「乙女」ニナルノサッ!」
「…ハァッ!?」
「乙女って…」

 

まさかJOLの口から、そんな単語を聞くとは思いもしなかった。 てか、あいつは そんな毒まで作れたのか。
ツタの壁を壊そうとする 俺の事なんか気にせず、ゆっくりとフォルテのとこに歩み寄って行く。 毒入りクッキーを フォルテの顔に近づけさせながら。

 

「サァーッテ、カワイイカワイイ フォルテチャーン。 コレ食ベテ、立派ナ乙女ニナローネェー♪」
「フザけんなっ! 誰がそんなぁ アァーーー!?」

 

ツタの先端がフォルテの口に入り込み、口を無理矢理大きく開けた。 滑稽で無様なフォルテを見つめながら、JOLは笑った。

 

「ハイッ、アーーーン♪」

 

開けられたフォルテの口の中に 毒入りクッキーを投げ込まれ、そしてすぐに 抑えられる。 吐き出そうと躍起になるフォルテだったが、いかんせん 口を抑えられているのでできるはずもない。 そして、とうとう毒入りクッキーを受け入れる音が聞こえた。

 

「サーテ、気分ノ方ハドウダイ? フォルテチャーン?」
「……」
「ンンー? ドウナンダイ? フォールーテーチャァーン?」
「……」
「…ネェ、ナンカ言ッタラドウナノ? フォルテ?」
「……」

 

さっきからJOLの呼び声に反応せず、ただ フォルテは黙ったままだった。 何とかツタの壁を破壊して、急いでフォルテのとこに駆け寄る。 拘束していたツタを破壊し フォルテが顔を上げたのは、その直後。

 

「…フォルテ、大丈夫か?」
「……」
「…フォル―――」
「美味い」
「……はっ?」「……ハッ?」
「毒、入ってねぇ…普通のクッキーだ」
「……ハァッ!? ハァァァァァァァッ!!?」

 

先ほどの勝ち誇った顔が一変、一気に困惑の色に染まった。 「ソンナハズナイッ!」と声を上げるJOL。 俺も 見るからにしてフォルテも、どうなっているのか分からなかった。
ふとっ、左足に「何か」が軽く当たった。 足下に視線を下げ その当たった「何か」を拾い上げた。

 

「これって…クッキー?」
「エッ!?」

 

それは JOLとフォルテが全部食べたはずの、「カボチャ型のクッキー」だった。 JOLが何度も食い入る様に確見るが、どう何度見ても カボチャ型のクッキーだ。

 

「ウソ…ナンデッ!? ナンデッ!? フォルテノヤツデ 最期ナンジャ…!?」
「…もしかして、さっき袋からぶちまけた時に テーブルから落ちたんじゃないか?」
「テーブルカラ、落チタ……」
「…ってー事はだ、コレが 最後のクッキーって事なんだよな?」
「……」
「確か、次はオマエの番 だったよなぁ…?」
「……チィッ!」

 

次の瞬間、フォルテの行動は早かった。 クッキーを処分しようと奪いにかかるJOLよりも早く、俺の手からクッキーを掴み取り そのままJOLの両腕を抑え込むように、JOLの上に跨った。 ツタを出し フォルテに襲い掛かろうとしたが、それ等全てを魔法で壊した。
立場は 一気に逆転。 今度はフォルテが JOLに対して、不気味な笑みを向けた。

 

「さーって、JOLちゃーん。 コレ食べて、立派な乙女になろーなぁー♪」
「ウワァァァッ! ヤメロ! ヤメテ フォルテ! 「ゲーム最弱ノ大魔王様」ッテ言ッタノ 謝ルカラ! ダカラ許シテ! ネェ! オ願イ! アッ ヤダ…」

 

魔王ハウスに JOLの断末魔が響いたのは、その直後だった。

 

 

 

 

 

「…で、JOLがああなったわけか」
「おう、そうなんだ…」
「全く、くだらん」

 

魔王全員が集められた 魔王ハウスのリビング内。 フォルテが高らか声を上げて紹介したJOLは いつもの姿ではなく、鮮やかなオレンジと紫の ハロウィンをイメージしたドレスを着ていた。 顔を隠しているカボチャ頭は カボチャの飾りが付いた大きなリボンを身に着け、意地悪そうな笑みではなく 子供の様にかわいらしく笑っている。

 

「ミンナ、ナァーンデ集マッテルノ? 会議?」
「いんやぁー JOL。 オマエのその 可愛らしいドレス姿のお披露目会なんだぜ!」
「ナルホド! ソッカァー!」
「…はぁ……」

 

まるで自分が最初から こんな姿でこんな性格だったと思っているJOL。 改によって撮られた写真を見て 赤っ恥と絶望を味わったのを聞かされたのは、それから4日後の話。

 

 

 


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